世界政府のための国際政党

鈴木俊雄

1997年5月

世界政府研究所



目次

T はじめに
U 序論
V 世界政府についての一般的な思想
W 世界政府を樹立し、維持する力
X 世界政府を樹立するプロセス

T はじめに

 この論文は、世界政府の樹立のプロセスを提案するものである。そのほかの課題、例えば、世界政府の必要性、構造、利益などは別の論文で考察するために除外されている。ここで提案されるプロセスは、その主な政策が世界政府のための選挙を行うことである国際政党である。

U 序論

 以下の節の内容は、次の通りである。V節では、世界政府に関するいくつかの思想がサーベイされる。ここでは、3編の世界政府の憲法草案がサーベイされ、それらの基本的な思想が要約される。W節では、世界政府を樹立し、維持する力について言及される。著者の見解では、その力は人々の支持であり、これは著者のサイト「世界政府研究所」のサブタイトルである。*1X節では、世界政府を樹立するプロセスが提案される。基本的なプロセスは、本部政党を1国に、支部政党を各国に持つ国際政党を設立する事であり、これは本論文のタイトルである。

V 世界政府についての一般的な思想

 本節では、世界政府についてのいくつかの論文がサーベイされる。先ず、3編の世界政府の憲法草案に言及する。それらは、
「世界憲法シカゴ草案」、*2(以後、「シカゴ草案」として引用)
地球連邦憲法」、(以後、「連邦憲法」として引用)
世界の憲法」、(以後、「世界の憲法」として引用)である。
これらの3編の草案は、その思想において基本的には変わらない。これらの草案において、政府は基本的に立法議会、行政部そして司法部から成っている。本論文では、著者は立法議会と行政部に言及する。何故なら、それらは世界政府のもっとも基本的な組織であり、それらのメンバーを選ぶのが最も難しいからである。これらの草案の本質的な内容は、細部を省略して、以下に要約される。
 「シカゴ草案」では、議会は連邦会議と立法議会からなる。連邦会議の個々のメンバーは基本的に市民100万につき1人選ばれる。立法議会については、81人は連邦会議により作成された各国からの候補者リストから連邦会議によって選ばれ、18人は連邦会議により作成された世界的に重要な組織からの候補者リストから連邦会議によって選ばれる。これらの世界的に重要な組織は、最初の選挙では国連総会によって指名され、後には立法議会によって指名される。このようにして、立法議会は99人のメンバーから成る。立法権は立法議会に付与される。大統領は、連邦会議によって提出された候補者リストから連邦会議によって選ばれ、内閣総理大臣を指名する。
 「連邦憲法」では、議会は人民院、国家院、参議院から成る。人民院は、人口に比例して選ばれる。国家院は、個々の国民政府によって決定される手続きによって選挙されるか或いは指名される国民代表から成る。そのメンバーは、以下の通りである。
1. 少なくとも人口10万人で1,000万人未満の国から1人の国民代表。
2. 少なくとも人口1,000万人で1億人未満の国から2人の国民代表。
3. 人口1億人以上の国から3人の国民代表。
4. 人口10万人未満の国の場合は、代表を送るために他の国とグループに加わることができる。
参議院は200人の参議から成り、総合大学,単科大学,科学アカデミー及び研究所の教師と学生によって指名された者の中から、他の2院のメンバーにより選ばれる。いかなる立法措置も人民院と国家院のどちらからも始められ、投票により有効となる。参議院はいかなる立法措置も始められ、それは他の2院へ提出される。世界行政部は幹部会と行政内閣から成る。幹部会は、5人のメンバーから成り、そのうちの1人は大統領に指名される。幹部会の大統領の地位は各年ごとに交代される。幹部会の各メンバーは世界議会のメンバーである。幹部会は、参議院によって提出された被指名者リストから3院の投票で選ばれる。行政内閣は、20から30人のメンバーから成る。行政内閣の各メンバーは、世界行政機構の政府機関の部門または機関の長として職務を果たす。行政内閣のメンバーの指名は幹部会がし、個々のメンバーは3院の投票で選ばれる。世界行政部の事務総長は幹部会に指名され、行政内閣全体の絶対多数の投票で確認される。事務総長は、世界行政部のいくつかの部門の上級行政官の仕事の調整を援助する。
 「世界の憲法」では、議会は衆議院、上院、ビジネス委員会から成る。衆議院は、各「地域」に設立される。しかし、地域の定義は明確ではない。各メンバーは人口に応じて選ばれる。上院は、連邦内に設立される。メンバーは、民族国家によって選ばれる。上院は、各地域からの20人の上院議員で構成される。ビジネス委員会は、連邦の委員会と地域の委員会から成る。ビジネス委員会のメンバーは、各地域の大きな順に1,000の多国籍企業の投票によって選ばれる。連邦のビジネス委員会は、各地域から1人のメンバーで構成される。各地域のビジネス委員会のメンバーの数は各地域の衆議院のメンバーの数の約5%である。連邦と地域のすべての法案は各院から発生する。法案は、各院(衆議院および上院)とビジネス委員会を経て法律となる。行政権は連邦と各地域の大統領に付与される。大統領は総選挙で選ばれる。
 我々は、3編の憲法草案における世界政府の基本的構成を見てきたが、世界政府を樹立するプロセスは「シカゴ草案」と「連邦憲法」に書かれている。
 「シカゴ草案」では、国際連合の総会が世界会議のメンバーの選挙のプロセスを決定する。
 「連邦憲法」では草案は国際連合の総会と地球上の各国政府に提出され、同時に世界憲法が予備的批准のために各国の国家立法府に提出され、国民投票による最終批准のために各国の人民へ提出されることを懇願する。そして、この憲法を作った世界憲法制定会議は、地球上の全ての国、コミュニティー、人々にこの世界政府の憲法を批准するように呼びかけ、また、十分な資金を含む一定の条件のもとに、批准委員会、世界選挙委員会等の準備委員会を設立し、暫定世界政府の会期を開催する。この後、実施プロセスは3段階に分かれる。第1実施段階では、10万人を越える人口を持った国が最低25カ国、憲法を批准する。第2段階は省略し、最終実施段階では、憲法は少なくとも人口の90%を含む80%以上の国によって批准される。
 他方、ディエター・ハインリッヒは、もう一つの方法を書いている。*3 彼は、欧州議会のような諮問会議を提唱し、それを国際連合議会会議と呼んだ。

W 世界政府を樹立し、維持する力

 我々は、いくつかの世界政府についての主な思想を見た。次に、我々は世界政府を樹立し、維持する力を認識すべきである。言うまでもなく、世界政府を樹立し、維持するのには偉大な力が必要である。ソビエト連邦はそれを維持する力を失ったから崩壊した。このように、国家がどんなに強大であろうと、それを維持する力がなければ維持することはできない。
 それでは、どんな力が世界政府を樹立し、維持できるのであろうか。著者の見解は、以下の如くである。それは、軍事力でもなければ経済力でもない。その力は、物質的でも経済的でもない。それは、精神的なものである。それは、人々の支持である。人々の支持のみが世界政府を樹立し、維持できる。多くの歴史的な変化がこれを示している。根本的に、人々の支持により古い権力が倒され、新しい権力が樹立されて来た。この力についての議論は重要であるが、著者はこの考えが正しいと仮定して先に進む。
 それでは、如何にすれば人々の支持を得られるであろうか。著者の見解では、支持は自分達の代表者を直接投票で選ぶシステムに集まる。ここで、著者は人々の最終的な支持を得られるシステムを提案する。それは、2院から成る世界議会である。各院は1,000人のメンバーから成り、そのメンバーは人口に比例して選ばれる。暫定的にそれを「北院」と「南院」と呼ぼう。もし、世界の人口が60億人とすると、メンバーの数は1,000人であるから600万人につき1人のメンバーが選ばれる。それ故、もし中国が12億人を擁しているとすると、中国は200名のメンバーを各院に送ることができる。インドの人口が9億人とすると、インドは150名のメンバーを送ることが出来る。アメリカ合衆国はと言うと、人口が2億6,000万人とすると、メンバーは43名である。日本はと言うと、人口が1億3,000万人とすると、メンバーは22名である。このような配分は、アメリカ合衆国や日本のような国に容易には受け入れられないであろう。しかし、それは最終的には支持されるであろう。

X 世界政府を樹立するプロセス

 我々は、世界政府についての幾つかの思想と、人々の最終的な支持を得られるシステムについての著者の見解を見た。これらについて考察すると、世界政府を樹立する可能なプロセスについての結論は次の如くであると思われる。基本的に、二つの道がある。一つの道は、国際連合のシステムの中でそれを試みる道である。もう一つの道は、国際連合の外でそれを試みる道である。
 前者の道では、WFM (World Federalist Movement)の様な組織が重要な役割を果たすであろう。WFMの様なNGOと国際連合がそのプロセスを促進するであろう。この道においては、多年にわたって多大な努力が成されてきた。
 後者の道は、人々の支持に基礎をおいた革命と呼べるものである。第一のステップは、世界政府を樹立する事が主要な政策である国際政党を作ることである。各政党は、1国の本部政党と各国の支部政党から成る。ここでは、政党の数は二つと仮定し、暫定的にそれらを「世界党」と「地球党」と呼ぶことにする。二つの政党の共通点は、

 各政党は一つの国に本部政党と各国に支部政党を持つ。主要な政策は、世界議会のメンバーを直接選挙する選挙を行うことである。メンバーの割り当ては、個々の国の人口に比例する。初期の段階では、世界議会は立法権を持たない諮問会議である。

 各政党は、世界政府についてのその主要な政策を強調し、選挙を戦う。この様にして、例えば日本において世界党が政権をとれば、選挙のための法律を制定し選挙を行う。選ばれるメンバーの数は、その人口に比例して、22名である。他の国、例えばアメリカ合衆国においては地球党が政権を取るかもしれないが、主要な政策は同じである。選挙を行い、43名のメンバーを選ぶ。個々の国から選ばれた代表者は、たとえ選挙がたった2カ国において行われたとしても、世界議会の一部を構成できる。他の国々は、その人口に応じて選ばれた代表者を送ることによって、後からこの世界議会の一部に加わることができる。この様にして、完全な世界議会のほんの小さな一部から真の世界議会へ発展する事ができる。初期の段階における世界議会は、欧州議会の様に立法権を持たない諮問会議であるべきである。言うまでもなく、初期の段階において立法権を付与する事はあまりにも危険である。たとえそれは立法権がなくても、それにふさわしい支持を受けるであろう。なぜならば、メンバーは人々によって直接選ばれたからである。それは、プロセスの適切な段階で、立法権を得るべきである。世界政府の憲法は 、立法権を持った世界議会が設立されてから作成されることが出来る。このプロセスが可能であるか否かの疑問に対する答えは、人々の支持によって与えられるであろう。いかなる、思想も最終的な結論を与えることはできない。
 上に書いた世界政府への二つの道のうちどちらが可能であろうか。あるいは、ほかにより良い道があるだろうか。前者の道については、アメリカ合衆国は支配的である。拒否権を用い国際連合の事務総長を決定でき、国際事情において指導的な役割を演じている。世界政府についての多くの勧告や懇願が国際連合に提出されたのに関わらず、国際連合は世界政府の設立に向かって動かない。これは、アメリカ合衆国がこの方向に動かないからであると思われる。アメリカ合衆国は、真に民主的な世界政府では支配的ではあり得ない。それ故、世界政府への運動を促進しないであろう。著者の見解によれば、もしこの考えが正しく、そしてこの状態が永く続きすぎれば、状況は後者の道を通って動くであろう。つまり、世界は革命へと動くであろう。世界党や地球党の様な国際政党が必要になるであろう。



*1 URLは、http://www.w-g.jp/wgi/wgi-j.htm。現在、このサブタイトルは、削除されています。
*2日本語版のみ入手可能。この草案は1948年にシカゴ大学の総長の名で書かれ、日本語に翻訳された。日本語の題名は、「世界憲法シカゴ草案」(『世界連邦二十年史』世界連邦建設同盟 1969年 5月)pp. 419-29 。
*3 Dieter Heinrich, The Case for a United Nations Parliamentary Assembly (New York: World Federalist Movement, October 1992) (コピーのみ入手可能)。

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